
琺瑯(ほうろう)のある暮らし
「繰り返し使える」「丈夫で丁寧な造り」職人さんの知恵と技術は、古くから受け継がれてきました。
そして現在、「使いやすい」という工夫もプラスされ、琺瑯が見直されてきています。
琺瑯製品が懐かしくどこか温かみを感じるのは、幼い頃から目にしているものだから。
そして、職人さんが一つひとつ心を込めて作られたものだから。製品を通じてぬくもりが感じられるのかもしれません。
見直されつつある琺瑯(ほうろう)製品
みなさん、琺瑯(ほうろう)ってご存じですか?
病院や保健室にあった洗面器で思いだされる方も多いのでは。カラフルな色のつるっとしたお鍋ややかんなどの調理道具に使われています。
手に持った時の重量感とやさしい手触りが、懐かしさや心地よさを引き出してくれますよね。最近では、雑貨屋さんでもよく見かけ、おしゃれな容器などが揃っていて琺瑯製品にはいろんな顔があるようです。
琺瑯の歴史
琺瑯の発祥には、いろいろな説がありますが、エジプトのツタンカーメン王のマスクがはじまりと言われています。なんと琺瑯の歴史は紀元前からあったのです!
昔は金や銀を加工して作る七宝焼の装飾品が主なものでした。(七宝とは、金属の中でも特に金銀や銅を下地にしてつくられた装飾、美術品として使われるものをいいます。)
琺瑯が実用品として使われるようになったのは比較的新しく明治になってからのことです。当時は、洗面器、ボールなどが主力でした。現在は、次々と新製品がつくられ、品質も格段に進歩しました。鉄を生地にした鉄板琺瑯が主流になっており、鍋やケトルなどはもとより、タンク、理化学用品、医療器具など、生活や産業のいろんな分野で琺瑯が使われています。
琺瑯製品のできるまで
琺瑯製品は、沢山の道具や材料、そして精密な機械を使い、長年の経験から培った職人さんの手作業で作られています。決して機械でポンポンできる工業製品ではありません。
一見、つるっと無機質な感じのする琺瑯ですが、よ〜く見てみると釉薬の掛かり方が微妙に違ったり、小さな点があったり、焼き付けの時に吊り具に引っかけて吊した跡が残っていたりとその表情は本当に豊かです。そして、製法が土から作る焼き物の器と同じように炉で焼成されて作られていたのは驚きです。
鉄板の生地に、ガラス質の釉薬をかけ、850℃で焼成され、一つ一つ職人の手作業で作られています。琺瑯製品を見て、鉄とガラスでできているのに「何故だか温かいぬくもりを感じる」のは、出来上がるまで数多くの工程において職人さんの手による細やかな愛情がこもっているからでしょう。
琺瑯(ほうろう)ができるまで
1)ひとつひとつ職人さんが釉薬をかけていきます 2)吊り具にかけて乾かします 3)850℃の炉で焼成 4)できあがり 5)色とりどりの琺瑯製品もあり、種類も豊富 6)入れ子になっているボールとバット。キッチン用品なのに、こんなに美しい! 7)野田琺瑯の野田善子さん。琺瑯製品の良さを多くの人に伝えている
琺瑯の特長
金属の強いけど錆やすい性質と、ガラスの美しいけど壊れやすい性質を結合させて、強くて美しい二つの長所をあわせもつのが琺瑯です。
表面がガラス質なので傷が付きにくく雑菌の繁殖も防ぎ、とても衛生的です。ニオイも付きにくく、酢や塩分にも強く、内容物を変化させないという特長があります。
ガラス質のため強い衝撃や落下などで表面が割れたりヒビが入ることがあります。そして空焚き、電子レンジはNG。金属タワシ、磨き粉は表面を傷つけるので使えませんが、布巾やスポンジで簡単にきれいになります。
琺瑯にしかない特長を楽しんで、大切に扱えば、何十年も使い続けることができます。
画期的な保存容器
プラスチックや色々な材質の素材の物が出て、衰退したかに見えた琺瑯製品ですが、最近またにわかに人気がでてきました。
その火付け役とも言えるのが野田琺瑯さんが作った『ホワイトシリーズ』。琺瑯屋さんに嫁いだ野田善子さんが主婦の目線から使い勝手の良い琺瑯保存容器を開発・改良しました。『保存容器』なのに、フタを外せば(シール蓋の場合)弱火にかけられ、オーブンにも使えて、下ごしらえ・調理・保存と3つの使い方ができるシリーズです。
1)ホワイトシリーズに下ごしらえをした野菜を入れるときっちり納まって清潔。琺瑯の白色が野菜の色を引き立てます 2)バターケースにもぴったり 3)持ち手付きのストッカーなら温めたりする調理にも使いやすいですね 4)3に琺瑯蓋をのせて、これなら直火も大丈夫
野田善子さんの思い
野田さんにお聞きしました。
「食べることは『身体を作る基本で、健康のすべて』だと思うの。お母さんが作った家庭料理を食べると身も心も満たされ、安らいだ気持ちになれる。一番大事な『家庭料理』を忙しいお母さんたちが作るのに便利だったり、使って気持ちが良かったり、少しでもお役に立てたら嬉しいと思っています。」
ご自身も二人の息子さんの母として、仕事のかたわら毎日の料理も欠かさず作り、その中で「自分が使いたい。自分が欲しい。」と思ってできた製品が今では、『みんなの使いたい琺瑯製品』になりました。
一石三鳥の琺瑯容器
野田さん流の使い方です。
「例えば小松菜は、まず一束洗って茎・葉・中心の茎に分けて琺瑯容器に入れます。毎日完璧にこなすのは無理ですよね。それより、いかに要領よく下ごしらえをたくさん用意しておくかがポイント。あとは毎日保存してある材料を使って茹でたり炒めたりするだけだから簡単です。」
「それから、出汁を作って琺瑯容器で冷凍しておけば、時間のない時など弱火にかけて溶かして使います。疲れている時なら温めたスープを飲むだけでも、ほっとしますよ。」
今からでも実践したくなるアイデア満載です。暮らしにも琺瑯を取り入れてみて、生活をもう少し豊にしてみてはいかがでしょう。
取材協力:日本琺瑯工業会、野田琺瑯株式会社

木の匙(さじ)・スプーンのある暮らし
私たちの生活はとても便利で、いろんな物があって、今の暮らしのままでも十分満足。
だけれど、人の手で丁寧に作られる道具や古くから日本で使われているものには、量産品にはない良さがあります。
大切に、育てるようにずっと使う、そんな道具は、心や暮らしを豊かにしてくれるかもしれません。
心や暮らしがうるおう、そんな暮らしをはじめてみませんか?
あなたのお気に入りのスプーンは? と聞かれたなら「わたしはいつもアレばかり使っているな」とか「そういえばあのスプーンはお気に入りかも」なんて考える方は、案外多いのではないでしょうか。あなたにもいくつかお気に入りのスプーンがありますか?
スプーンって実は、すごく好みが分かれる個人的な道具。口の大きさや歯の形などがみんな違うから、使いやすいと思う形もみんな違って当たり前。そう気づかされたのが木の匙、木のスプーンとの出会いでした。
スプーンを「育てる」
木のスプーンといっても、木工作家さんがひとつひとつ木材から手作業で削りだして作っているスプーンから機械で大量に削られるスプーン、輸入されてくるスプーンなど、製造方法は様々です。表面がつるつるだったり、削り跡があったり、ざらっとしていたり。それによってスプーンの使い心地や持ち味も変わってきます。
では、木のスプーンの良い点ってどんなところでしょう。まずあげられるのが、口当たりがやさしいこと。そして食器に当たってもカチャカチャとした音が気にならないこと。食器を傷つけないこと。木の特性で、熱が伝わりにくいから、あつあつのものが食べやすいこと。金属に比べて軽いから、子どもやお年寄りにも無理なく持てること。使っていくうちに、木の表情が変わって味が出てくることなどがあります。特に木工作家さんが制作したスプーンの場合、削った状態に塗装ではなく、オイルや蜜ろうをすり込んで仕上げてあったり、漆を塗って仕上げることも多く、長く使っていくうちに味わいが出てくるスプーンが多いようです。日々の暮らしの中で「あ、私のスプーンがだんだんいい色になってきたな」「育ってたな」と感じることも楽しみのひとつになるでしょう。
匙が生まれる場所
1)里帰り中の匙 2)工房の棚には木材が並ぶ 3)さかいあつしさんと奥様のかよさん 4)左2つが『初めての匙』。右が『実から出た匙』 5)工房で匙を削るさかいさん 6)JR国立駅から数分の住宅街にある匙屋 TEL.042-577-5075 ブログ:sajiya.exblog.jp
匙屋の匙
匙を作っているから屋号は「匙屋」。という直球のネーミングが素敵な匙屋さん。お店の二階にある工房では、匙屋こと、さかいあつしさんが匙を一本一本手作業で削り、制作しています。その工房を見せていただくと、いろんな木材が所狭しと並び、木の濃い香りが漂っています。匙屋定番の『実から出た匙』と赤ちゃん用の『初めての匙』の制作途中。ユニークな名前の『実から出た匙』の由来をうかがうと、匙には食べられる実をつける木だけを使っているからというこだわりがありました。『初めての匙』は、スプーンの頭部分が小さく作られていて、離乳食から使える、まさに赤ちゃんにとっては、人生初めてとなる記念の匙となります。
匙の好みは十人十色
「匙に関しては本当に人それぞれ好みがあって、軽くて良いという方がいたり軽すぎて物足りないという方もいたり、口元(スプーンの頭部分)が深めがいい、浅い方が良い、厚みは薄い方がいい、ぽってりしているのがいい、など本当に様々ですよね。」とさかいさん。「匙屋の匙に限らず、いろんな匙を使ってみて、自分に合う形を見つけてほしい。匙屋はそのきっかけの一歩になれればうれしいです。」と語るのは匙屋の店長でもある奥様のかよさん。
1)匙屋のおかざり匙(大)。裏側の彫り跡がキラキラと美しい 2)萩原英二さんのスプーン。くるみオイル仕上げ(土庵) 3・4)富井貴志さんのスプーン(土庵)3)は拭き漆仕上げ、4)は蜜ろう仕上げ 5)萩原英二さん、富井貴志さん、川端健夫さんのスプーン(KOHORO) 6)冬は空気の乾燥をおさえて足元ポカポカのリンナイ温水式床暖房「床ほっと」がおすすめ ※詳細はガス販売店にご相談ください。
匙・スプーンの手入れ
木の匙やスプーンを長く使うためには、手入れが必要です。木は、熱や水分によって割れたり歪んだり、反ったりすることがあるので、直射日光に当てたり、水に浸けっぱなしにしないこと。白木にくるみオイルなどを塗って仕上げてあるスプーンの場合は、ツヤがなくなってきたら、オリーブオイルやくるみオイルなど植物性のオイルをすり込むように塗って風通しの良い日陰で乾燥させます。また、表面のけば立ちが目立つ場合は、目の細かいサンドペーパーで磨いてからオイルを塗ります。
匙屋さんの匙のように拭き漆仕上げなどで漆が塗ってある場合は、特に手入れはいりません。漆仕上げのものは、使ううちにツヤが出てきます。その後だんだん摩耗してくるので、制作した作家さんか購入店に相談すると塗り直しをしてくれる可能性が高いです。
匙の里帰り
匙屋さんでは『匙の里帰り』と名付けて、すり減ってしまった匙や小さい子がかじって歯形のついた匙、時には勢い余ってポッキリ折れてしまった匙などの修理や漆の塗り直しも行っています。
手間と時間を楽しみながら、のんびりマイ匙・マイスプーンを育てていくことも、心や暮らしのうるおいに繋がっていくはずです。
暖かい部屋で
これから寒くなる季節。床暖房やガスファンヒーターなどで寒さ対策をしながら、暖かい部屋で、木の匙・スプーンでスープなどいただいてみては、いかがでしょう。木のぬくもりと温かな質感にほっこりしますよ。
取材協力:匙屋 撮影協力:土庵:www.doann.com/、KOHORO:www.kohoro.jp/
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